
ウィングコプター共同創設者兼CEO トム·プルマー氏へのインタビュー
アイデアから起業家精神へ
長嶺義宣: このインタビューをお引き受けいただきありがとうございます。読者の皆様のために、簡単に自己紹介をお願いできますか?あなたはドイツに拠点を置く人道的かつ商業的な配送ドローン会社「ウィングコプター」の共同創設者兼CEOであり、ドローン配送を通じて命を救い、生活の質を高める革新的なソリューションを提供しています。また、これまでに1億ドル以上の資金を調達し、2023年には世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーに選ばれました。その経緯やミッションについて教えていただけますか?
プルマー : こちらこそありがとうございます、この場に参加できて光栄です。
私の旅路は、常にインパクトを生み出すことへの情熱に突き動かされてきました。私はガーナで2年間過ごし、医療や基本的なインフラへのアクセスが限られている地域社会が直面している課題を目の当たりにしました。特に印象に残っているのは、隣人の子どもがちょっとした熱病のために必要な薬が手に入らず亡くなってしまったことです。それが私の心に深く影響を与えました。ドイツに戻った後、映像制作やデザイン、コミュニケーションといった自分のスキルを使ってどのように変化をもたらせるかを考えました。
ガーナでの生活は、レジリエンス(回復力)や地域社会をエンパワーすることの重要性を教えてくれました。子どもたちに映像制作を教え、衛生環境の欠如や教育へのアクセスといった問題を記録する手助けをしました。一つのプロジェクトでは、子どもたちの制作したドキュメンタリーがきっかけとなり、実際に海岸の清掃活動が行われました。この経験は、ツールや知識を提供することで人々が自ら解決策を生み出せるようになるという私の信念を強化しました。ガーナでの経験は、単なる出来事ではなく、謙虚さや創造性、地域社会の力を学ぶための大きな教訓となりました。

長嶺: そのとき、あなたは何歳でガーナに行ったのですか?
プルマー: 19歳でした。そして、22歳のときに再び戻りました。25歳で最初の会社を設立しました。
長嶺: そんな若い年齢で・・起業家になろうと思ったきっかけは何ですか?正式な教育が大きな要因だったのでしょうか、それともより非公式な方法で学んだのでしょうか?
プルマー: ガーナでの経験が転機でした。それは、テクノロジーと現実の課題とのギャップを示してくれるもので、そのギャップを埋めたいという思いを抱かせました。命を救い、具体的なインパクトをもたらすソリューションを作りたかったのです。正式な教育もスキルを形作る上で重要でしたが、私が学んだ多くのことは実践や非公式なリソース、例えばポッドキャストや独学から得たものです。
例えば、「The Twenty Minute VC (20VC)」というポッドキャストを熱心に聴いていました。ある日、自分がそのポッドキャストで学んだ戦術を使って何百万ドルもの資金を調達していることに気づきました。冗談ですが、ポッドキャストの企画者が「手数料をよこせ」と言って来ないことを願っています(笑)。私にとって、起業家になるということは富を追い求めることではなく、この世界であってはならない問題を解決することを意味していました。起業家精神を考えるとき、私はその取り組みによって改善しようとしている人々の生活を思い浮かべます。
ウィングコプターの創設について
長嶺: ウィングコプター設立について教えてください。共同創設者との出会いや会社のビジョンはどのようなものでしたか?
プルマー: 共同創設者との出会いは、私にとって大きな転機でした。彼は素晴らしいエンジニアで、ドローンのプロトタイプを開発していました。彼が技術に集中する一方で、私はドローンを有意義な目的に活用するというビジョンを持っていました。出会って1週間でウィングコプターを設立することを決意しました。彼の技術的専門知識と私のインパクトへの情熱を組み合わせることで、現実の課題に取り組む会社を築き上げました。
彼はすでに画期的な技術を備えたプロトタイプを開発しており、垂直離着陸と効率的な前進飛行を可能にする特許取得済みのティルトローター設計も含まれていました。一方で、私はこの技術をどのように緊急のグローバル課題に適用するかという視点を持ち込んだのです。一緒に、ウィングコプターを単なるアイデアからスケーラブルなソリューションに変えることができました。
創業初期は、無知と不屈の決意が入り混じった日々でした。どのように達成するかはわからなくても、私たちは成し遂げたいことを明確に理解していました。それが小さく始めることの素晴らしさです。一つ一つのマイルストーンが大きな意味を持ちます。
スタートアップの課題
長嶺: 起業家としての旅路の中で、最も大きな課題は何でしたか?特にドローン業界ではリスクが多いと思いますが、どのような挫折を経験し、それをどのように乗り越えたのか教えてください。
プルマー: 最大の課題は、厳しく規制された商業航空業界を切り抜けることでした。この業界では、本当に革新的なものを生み出すために、多大な時間、資金、そして研究開発(R&D)が必要です。単に既存のソリューションを模倣するのではなく、市場に革命を起こすには何年もの努力が求められます。しかし、多くの投資家は短期的なリターンを求める傾向があり、R&Dの段階ではそれが難しいのが現実です。
私たちは10年以上にわたり、1億ユーロ以上の投資、飛行およびベンチテスト、そして実証試験を経て、ついに「Wingcopter 198」の商業化フェーズに移行し、グローバルに展開する準備が整いました。今後5年間は、世界トップクラスのドローンソリューションを市場に投入し、グローバルなインパクトを与えることに注力します。
私たちの歩みは、多くのスタートアップとは異なります。創業から最初の4年間は自己資金で運営し、両親から2万ユーロを借りてドローンの開発と収益化に奔走しました。この方法により、私たちは自律的に成長し、事業のコントロールを維持することができました。初期段階で不利な条件を提示する投資家を避けたことで、私たちのビジョンを損なうことなく進むことができたのです。
事業が軌道に乗り始めると、シリーズAラウンドで6,000万ユーロを調達し、さらに欧州投資銀行(EIB)から4,000万ユーロの追加投資を受けました。グローバル規模での拡大には今後も数億ユーロ規模の資金が必要ですが、これまでに直面してきた課題を乗り越えたことで、私たちはより強くなり、次のフェーズへの準備が整っています。
ドローンがグローバル課題に対処する役割
長嶺: ドローンはグローバル課題にどのような役割を果たし、どのような影響を与えるのでしょうか?特に低中所得国でラストマイル配送に焦点を当てている理由を教えてください。
プルマー: ドローンは物流、特にラストマイル配送においてゲームチェンジャーとなる存在です。インフラの不足による大きなギャップに対応し、迅速かつ信頼性の高い輸送手段を提供します。先進国では、交通渋滞が配送を遅らせることがありますが、アフリカや東南アジアの農村部では、インフラの欠如により、医療用品が目的地に届くまでに数日かかることがあります。ドローンはこれに対し、より迅速で信頼性の高い選択肢を提供します。
例えば、遠隔地に住む母親が、出産後に出血を止めるためのオキシトシンを必要としているとします。ドローンを使えば、その命を救う薬を数分で届けることができます。これが、私たちが医療物流に焦点を当てている理由です。しかし、ドローンは医療に限ったものではありません。飢餓や教育、気候変動など、他の課題にも取り組む可能性を秘めています。「私たちは単にドローンを飛ばしているのではありません。機会を飛ばしているのです」とよく言います。
※ラストマイル配送:物流や配送のプロセスにおいて、商品の最終的な届け先である消費者や店舗までの配送を指す。
ドローンの将来的な活用事例
長嶺: 医療物流以外で、ドローンの将来的な活用事例としてどのような可能性を見ていますか?
プルマー: 可能性は無限大です。私たちは、ドローンネットワークが空における物流のハイウェイになることを想像しています。医療物流以外にも、ドローンは食料品の配達、eコマース、野生動物の保護、さらには中間物流にも利用できます。たとえば日本では、離島への食料品配送を模索するパートナーシップを進めています。技術が進化すれば、より重い荷物をより長い距離運べる大型ドローンの開発が可能になります。
規制の枠組みが、ドローンの未来の活用事例を形作る重要な要素となります。技術自体はすでに準備が整っていますが、都市部で安全かつ効率的に運用するためには明確なガイドラインが必要です。このプロセスは苦痛を伴いますが、安全性と法令遵守は譲れません。
また、ドローン物流に再生可能エネルギーソリューションを統合する機会も見ています。たとえば、水素を動力とするシステムです。可能性の限界を押し広げながらも、持続可能性を確保することが私たちの目標です。
相乗効果、パートナーシップ、成長
長嶺: ウィングコプターがドイツで成功を収めているのは偶然ではありませんね。ドローン産業と自動車産業の間の相乗効果について詳しく教えていただけますか?
プルマー: もちろんです。ウィングコプターのユニークな点の一つは、ドイツの豊かな自動車産業の歴史を活用していることです。ドイツはダイムラーやフォルクスワーゲンのような企業で知られていますが、これらの企業は量産化と耐久性において卓越しています。その原則を航空業界に応用しています。
たとえば、自動車は日々過酷な条件下で稼働する必要があります。私たちはその耐久性をドローン製造に取り入れました。私たちのチームには、自動車業界と航空宇宙業界の両方で何十年もの経験を持つ人々が含まれています。これらの専門家が、スケーラビリティと効率性において非常に貴重な洞察をもたらしています。
また、量産化に向けた準備も進めています。東南アジアやラテンアメリカで工場を建設した経験を持つ新しいシニアチームメンバーが、私たちのオペレーションを産業化するのを助けてくれる予定です。この知識のクロスオーバーが、ウィングコプターをグローバル市場で際立たせている理由です。
長嶺: 日本での取り組み、特にANA(全日本空輸)や日本赤十字社との協力は、この革新性を象徴しているようですね。日本でのパートナーシップについて詳しく教えていただけますか?
プルマー: 日本は、私たちがイノベーションと地域パートナーシップを組み合わせている良い例です。伊藤忠商事は、全日本空輸や日本赤十字社とのコラボレーションを含め、多くの扉を開いてくれました。沖縄のような遠隔地で血液やその他の医療用品を配達する試験を行いました。このパートナーシップは、食料品配送など他の分野にも広がり、私たちの技術の多用途性を示しています。
日本での成功は、文化的理解と協力に基づいています。地域の関係者と協力することで、その地域の具体的なニーズに合ったソリューションを提供しています。たとえば、地域のチームにドローンの操作や保守を訓練し、長期的な影響を確保しています。一度、成功した試験の後、沖縄の80歳の住民が「これで生活が楽になった」と拍手してくれたことがありました。そのような瞬間が、私たちがこの仕事をしている理由を思い出させてくれます。
ビジネスの拡大における課題
長嶺: 事業を拡大する中で、どのような課題に直面しましたか?
プルマー: ドローン業界で事業を拡大するのは容易なことではありません。最大の課題の一つは、規制の状況を乗り越えることです。国ごとに規則が異なり、法令遵守には時間とリソースがかかります。また、投資家に長期的なビジョンを支持してもらうことも困難でした。初期段階では自己資金で運営しなければならず、それは長時間働き、一つ一つのユーロを大切に使うことを意味しました。
また、私たちの技術が多様な環境で十分に機能することを保証することも課題でした。砂嵐が吹き荒れる砂漠や、常に雨が降り続ける熱帯雨林など、16か国でドローンをテストしました。それぞれの課題が新たな学びをもたらし、その学びが今日私たちが展開している信頼性の高いシステムを形作りました。
私の信条
長嶺: あなたは多くの専門家やステークホルダーを効果的にまとめる力があるようですね。
プルマー: ビジネスを築き、販売し、あらゆる活動を成功させるには、エンバシー(共感)が重要です。
長嶺: それは興味深いですね。エンパシーとは具体的にどういう意味ですか?
プルマー: エンパシーは単に売上を伸ばすために自分に強制するものではありません。共感は、育った環境や親や友人、あるいは人間関係の中で他者を理解する感覚を培っているかどうかにかかっています。残念ながら、そうした影響がなかったために共感を持てない人もいます。
成功の鍵はエンパシーです。顧客や患者が本当に何を必要としているのかを理解すれば、それに応じたサービスを提供できます。例えば、病院で出産中の母親にとって重要なのは、ドローンがどれだけ高機能かではなく、必要な支援がタイムリーに届くことです。もしドローンが遅れたり、必要なものを届けられなかったりすれば、どれほど素晴らしい見た目や機能を備えていても失敗です。
メッセージ
長嶺: 最後に、日本の読者や若い起業家志望者に向けたメッセージをお願いします。
プルマー: まず最初に、アリガトウ・ゴザイマス。私は日本が本当に大好きです。訪れるたびに、日本の素晴らしいおもてなしや細部へのこだわりに感動します。美しい庭園、絶品の料理、そして温かい人々。これらすべてが日本の思いやりの精神を表していると思います。何度訪れても驚きと感銘を受けています。
ウィングコプターとしても、日本には大きな可能性があると感じています。日本の皆さんは、特に高齢者ケアの分野で、技術革新や変革に対して非常に前向きです。例えば、五島列島ではドローンで新聞や食料品、医薬品を届けています。
高齢者の方々が技術を受け入れてくれる様子を見るのはとても心温まる経験でした。80歳を超える住民の方々でも、朝には新聞を、午後には薬を、そしてその間に食料品をドローンで受け取ることを楽しんでいらっしゃいました。年齢に関係なく、皆さんがこの技術に素早く順応してくださる姿は本当に感動的でした。私たちが記者会見を開催したり、短編映像を制作したりすると、地域全体が参加してくれて、その熱意にいつも驚かされます。
私たちは日本でさらに多くのことを成し遂げたいと思っており、若い世代も高齢者の方々もこの旅に参加してほしいと願っています。私たちは知識を共有し、地元での雇用を創出し、ネットワークを通じて協力関係を築くことを信条としています。もしウィングコプターが日本でさらに展開を進める中で、このミッションに参加したいと考えてくださる方がいれば、さまざまな方法で関わる機会があります。たとえば、伊藤忠商事を通じて、または私たちのウェブサイトにあるキャリアページを通じて直接関わることができます。
私たちはまだ小さな会社なので、大きな約束をすることはできませんが、私たちの野心は明確です。私たちはこの業界のグローバルリーダーになることを目指しています。そして常に、素晴らしいパートナーシップや才能を迎え入れることにオープンです。
長嶺: トム、ありがとうございました。本当に興味深いお話でした。ドローンのおかげで、もはや「空は限界」(The sky is the limit)ではありませんね。もしかすると次は星々を目指すのでしょうか?
プルマー: その通りです!もはや銀河が限界です!(笑)ヨシ、今日は本当にありがとうございました。このインタビューはとても楽しかったです。